こちらの記事でわかること
システム導入は、業務効率化や情報の一元管理、属人化の解消など、企業が抱えるさまざまな業務課題を解決するための有効な手段です。一方で、システムは導入しただけで現場に定着するわけではありません。
期待した効果を得るためには、あるべき姿(目的・目標)と現状、そして両者のギャップ(課題)を明確化し、そのギャップを解消するために社内外のあらゆる関係者を巻き込んでシステムを業務に組み込み、その上で継続的な利活用につなげる必要があります。
システム導入では、サービスの選定や初期設定、データ移行、利用環境の整備など、利用開始までの準備に意識が向きやすい傾向があります。しかし、システムを定着させるには、導入後も実際の利用状況に合わせて、業務の進め方や運用方法を継続的に見直していかなければなりません。導入を一時的なプロジェクトとして捉えるのではなく、導入後の中長期的な運用までを見据えて取り組むことが重要です。
システムの導入に伴い、社内での情報共有や部門間の連携、確認・承認の方法など、日々の業務にもさまざまな変化が生じます。システムの種類や導入目的によって異なりますが、以下のような変化が考えられます。
項目 | 導入前 | システム導入後 |
|---|---|---|
情報管理 | 表計算ソフトや紙による個別管理 | 情報を集約して一元的に管理 |
確認・承認 | メールや紙による確認・承認 | ワークフローに沿って申請・承認 |
情報共有 | ファイル送付や個別連絡による共有 | 必要な情報をシステム上で共有・参照 |
進捗管理 | メールや管理表などで状況を確認 | タスクや案件の進捗を可視化 |
こうした業務の変化を整理し、現場で無理なく運用できる形に落とし込むことで、システムの定着につながります。

当社が行った独自調査(回答者:製造・小売・卸売業に従事する599名)において、「Q3. 新しいシステムの導入に踏み切れない理由は何ですか?」という質問に対し、39.2%が「システムを導入したからといって改善が図れる自信がない」と回答しました。この結果から、システムを導入すること自体が業務改善を保証するものではないという認識がうかがえます。
システム導入による業務改善は、既存の業務をそのままシステムに置き換えることだけで実現するものではありません。導入を契機に業務フローを見直し、業務手順や情報管理の方法を標準化することも、改善につなげるための重要な取り組みです。こうした業務改善を実際の運用に反映し、現場に定着させていくことが、システム導入の効果を引き出す上で欠かせません。
※その他の調査結果に基づくレポートは、以下のページにまとめています。詳しくはリンク先をご覧ください。
システムの導入目的が、経営陣や導入担当者の間だけで共有され、現場まで十分に伝わっていないケースがあります。重要なのは、導入目的を現場の業務に即して具体化することです。
例えば、「担当者ごとに管理していた情報を集約して、確認や引き継ぎにかかる時間を削減する」といったように、現場にとってのメリットを明確にします。システムを現場に定着させるためにも、導入すること自体を目的とせず、その先でどのような業務課題を解決するのかを現場と共有しておくことが重要です。
システムの仕様や運用方法と現場の業務フローに乖離がある場合、システムの定着は困難になります。その結果、システム外での補完作業や従来の管理方法が残り、移行が十分に進まない可能性があります。
システム導入では、単に既存の業務を新しいシステムに置き換えるのではなく、導入を機に業務フローそのものを見直すことが重要です。不要な手順や重複している作業を整理し、システム導入後の業務フローを改めて設計することで、業務改善を進めるとともに、システムの定着を図ります。
ひとつの業務を処理するために多くの操作が必要になると、日常的に利用する現場ほど負担が大きくなります。特に、利用頻度の高い業務では、僅かな操作の手間でも、積み重なることで業務効率の低下につながります。
システムの選定・運用では、機能の充実度だけでなく、実際の業務の中で無理なく使い続けられる操作性も重視する必要があります。
導入時のトレーニングや操作マニュアルだけでは、運用開始後のすべての状況に対応できるとは限りません。導入前には想定していなかった課題や、個別の業務で判断が必要になるケースも生じます。また、システムの機能追加や社内ルールの変更などに伴い、対応が求められることもあります。そのため、運用開始後も必要に応じて継続的にフォローできる体制を整えることが重要です。
システムの定着状況を判断する際には、利用率などの数値だけでなく、実際の業務でどのように使われているかにも目を向ける必要があります。ここでは、特に注意すべき3つのサインについて解説します。
システムが利用されていても、本来管理すべき情報が十分に蓄積されていない場合は、定着していないサインのひとつと考えられます。特に、情報の登録や更新が担当者ごとの判断に委ねられている場合、入力内容や更新頻度にばらつきが生じやすくなります。必要な情報が揃っていなければ、システムを参照しても正確な状況を把握できず、一元管理という本来の目的を果たせません。
システム導入後も、表計算ソフトや紙などを用いた従来の方法が残り、新システムとの二重管理が続いている場合は注意が必要です。システムの移行過程において、一時的に二重管理が発生するケースもありますが、その状態が常態化すると、入力や更新作業が重複し、現場の負担が増加します。また、更新漏れなどによって情報に差異が生じる可能性もあります。
従来の方法を介さなければ業務を進められない状態では、システムが日常業務に十分に定着しているとはいえません。
システム上の情報が、日々の業務に十分に活用されていない状態も、定着していないサインのひとつです。状況の把握や業務上の判断にシステム上の情報が使われず、担当者への個別確認が続いているケースなどが該当します。こうした状態では、情報を登録してもその後の業務に活かされず、現場にとっては入力作業の負担だけが残りやすくなります。
システムを現場に定着させるためには、実際の業務に沿った運用方法をあらかじめ整理しておく必要があります。
具体的には、主に以下の観点から運用を設計します。
システムを運用する上では、実際の業務に沿って運用ルールを整理して、明文化することが重要です。例えば、営業支援システムであれば、「営業担当者が商談終了後に情報を登録する」「受注が確定した段階で案件のステータスを更新する」など、具体的なルールを定めます。
明文化する主な項目は以下のとおりです。
こうしたルールは、一部の担当者だけで決めるのではなく、実際に利用する現場の業務実態を踏まえて整備する必要があります。
運用支援を情報システム部門やシステム担当者に集約してしまうと、現場で生じている課題を把握しにくくなることがあります。そのため、各部門にシステムや業務への理解が深い「キーユーザー」を配置して、現場に近い立場で運用を支援できる体制を整えることが有効です。
キーユーザーには、主に以下のような役割があります。
キーユーザーを配置する際には、部門内で対応する範囲を定め、判断が難しい場合の引き継ぎ先まで明確にすることで、スムーズな運用につながります。
操作方法や運用ルールに関する問合わせが多いと、現場とシステム担当者の双方に負担がかかります。そのため、必要な情報を現場で確認できる環境を整える必要があります。
具体的には、以下のような方法があります。
FAQや操作マニュアル、操作ガイドは、実際の運用に合わせて継続的に更新することが重要です。また、自己解決を支援するツールとして、DAPを活用する方法もあります。
※Digital Adoption Platform(デジタル・アダプション・プラットフォーム)の略で、システム画面上に操作手順や補足情報を表示し、操作を支援するツール。マニュアルを別途参照する負担を軽減できる。
FAQや操作ガイドを整備しても、すべての問題を自己解決できるわけではありません。システム障害や個別の業務判断など、問合わせが必要となるケースもあります。そのため、内容に応じて、一次対応を行う担当者と、そこで解決できない場合の引き継ぎ先をあらかじめ整理しておく必要があります。
相談内容 | 一次対応 | 引き継ぎ先 |
|---|---|---|
基本的な操作方法 | キーユーザー | システム担当者 |
部門内の運用ルール | キーユーザー | 部門責任者 |
システムの不具合・障害 | 情報システム部門 | ベンダー |
エスカレーションルールを明確にすることで、問合わせ内容に応じた適切な引き継ぎが可能になります。
システムを導入しても、現場で十分に活用されなければ、期待した効果にはつながりません。導入後の運用まで見据え、現場で継続的に活用できる環境を整えることが重要です。システム導入を一時的なプロジェクトとして捉えるのではなく、導入目的の共有や運用ルールの整備、現場への支援を継続する必要があります。
利用状況を踏まえて業務の進め方や運用方法を改善していくことも、定着を図る上で欠かせません。こうした運用を継続することで、システムの導入効果をより高めることができます。