こちらの記事でわかること
引き継ぎがうまくいかない企業では、担当者の経験やスキルだけでは説明しきれない構造的な課題が根強く存在しています。当社が行った独自調査(回答者:製造・小売・卸売業に従事されている599名)では、日常業務において自身がどのような点に問題を感じているのかについて回答を得ました。
本記事では、調査結果をもとに、企業が直面する引き継ぎの課題を明らかにしながら、「なぜ、引き継ぎがうまくいかないのか?」という原因に迫ります。

Q1:「現在の業務において、特に課題を感じていることは何ですか?」という問いに対して、2位~5位に挙げられた4つの項目はいずれも、引き継ぎ業務の障壁として現場で頻繁に指摘されるものです。ここでは、4つの項目について、どのような問題が発生しているかを紐解いていきます。
属人化は再現性・持続性の観点では大きなリスクを伴います。
担当者がいなければ業務が回らない状態は、長年の経験や慣習に依存した業務運用が定着している現場で散見されます。業務知識が特定の個人に集中してしまうと、異動や退職が発生した際に知見の継承が難しくなり、引き継ぎに多くの時間と手間を要することになります。
入力・チェック作業に時間がかかる背景には、さまざまな要因が考えられます。例えば、同じ内容を複数の媒体に転記する運用や、入力フォーマットが統一されていないといった状況です。こうした作業の複雑化は、結果としてミスや手戻りが発生しやすく、引き継ぎの負担が増大する要因となります。
アナログな管理方法は、業務の可視化やマニュアル化が進みにくいという課題を抱えています。例えば、Excelファイルが個人のPCに保存されていたり、紙の帳票に依存していたりすると、後任者が業務の全体像を把握がしづらくなります。また、ファイル名のルールや管理場所が明確でない場合、引き継ぎ時の混乱や属人化の再発を招くことにもなりかねません。
部門ごとに異なる管理ツールを使用していたり、個別システムの連携がされていないケースでは、複数のシステムを横断した確認が求められます。その結果、「どこに何の情報があるのか」を探すだけで多くの時間が割かれます。引き継ぎ時には、こうした状況がさらに負担となり、情報の抜け漏れや重複が発生するリスクも高まります。
これらの課題に共通するのが、アナログな業務運用による限界です。引き継ぎが難しい企業に共通するのは、業務が「人を中心」に設計されているという点です。紙や表計算ソフトによる記録、口頭での申し送りといった方法は情報の更新性や検索性に乏しく、引き継ぎのたびに再確認や補足が必要となります。
また、管理対象が点在し、担当者以外から全体像が見えない状態が続けば、業務は自然と属人化します。こうした状況では、どれだけ丁寧に引き継ぎの時間を設けたとしても、業務全体を適切に共有・再現することは困難です。こうした非効率の蓄積は、通常業務では大きな問題と認識されにくい一方で、担当者が交代するタイミングでは一気に表面化します。
その結果、引き継ぎの精度は落ち、組織全体の生産性にも悪影響を及ぼすことになります。
バックオフィス業務には、在庫管理、販売管理、生産管理、購買管理、財務会計まで、企業運営を支える幅広い領域が含まれます。一方で、これらの業務は紙や表計算ソフトによる個別管理が中心で、情報が分散するため、属人化しやすいという課題を抱えています。こうした状態から脱却するためには、業務の「可視化」から始まり、システムによる「一元管理」へと仕組みを再構築する必要があります。
以下では、業務改善の第一歩として取り組むべきポイントを解説します。
日々の業務をこなしているものの、その全体像や判断基準が文書化されておらず、口頭や暗黙の了解で進んでいるケースが少なくありません。まず取り組むべきは、業務の流れを整理し、現在の状態を可視化することです。
業務フローの可視化は、単に手順を整理するだけでなく、ボトルネックを発見することにもつながります。「いつ」「誰が」「どの情報をもとに」進むのかを整理する中で、次のような点が明確になります。
これらの工程は、引き継ぎ時に伝えることが難しく、業務品質のばらつきにつながる要因でもあります。
例えば、請求処理において「●●さんに直接メールで確認する」「表計算ソフトの特定セルは毎回手動で修正する」といった慣習的な運用が定着している場合、業務の全体像が他者からは見えにくくなります。こうしたケースは、担当者が抜けた瞬間に再現性が失われるリスクを常に抱えています。
業務フローが整理され、組織内で共有できる状態になると、引き継ぎ時に「どの情報を、どのように引き継ぐか」が明確になります。作業を個別に引き渡すのではなく、”業務全体の中でどの役割を担っているのか”をあわせて示すことができます。可視化を通じて、個人に依存していた暗黙知を"共有できるかたち"に変換することが、属人化の解消と引き継ぎ品質の向上につながります。業務の流れが共有されていれば、後任者は作業の背景や判断の前提を把握しやすくなり、引き継ぎ後の確認作業や手戻りが減り、業務の継続がスムーズになります。
業務フローの見直しと並行して取り組みたいのが、ペーパーレス化と情報の集約です。現在もなお、申請書、稟議書、契約書、報告書などを紙で管理している場合、担当者の手元にないと確認できない、紛失や劣化のリスクがあるといった制約が生じます。
書類やデータをクラウド上に集約することで、「誰が・いつ・何を処理したか」といった業務ログが残り、引き継ぎやトラブル対応がスムーズになります。クラウド化のメリットは、アクセスの柔軟性だけでなく、情報が一箇所に集約されることによる”確認工数の削減”にあります。取引先情報、契約内容、請求履歴といったデータが分断されずに管理されていることで、担当者が変わっても業務の前提条件を把握しやすくなります。
アナログな管理体制では、契約書は紙で保管され、請求データは個人のPCのファイル、過去の対応履歴は担当者個人のメールやチャットに埋もれている、といった状態が生じます。こうした環境では、「どこに何が保存されているのか分からない」「担当者が休むと探せない」といった事態が発生するリスクが高まります。
これは単に利便性の問題だけでなく、ミスや漏れを防ぐ業務体制の構築を妨げる要因にもなります。
「書類は紙の方が安心」「上長の捺印が必要」といった理由から、紙運用が根強く残っている企業も少なくありません。まずは、現在紙で運用されている書類を洗い出し、”電子化できる業務”と、”まだ紙が必要な業務”に分類することが重要です。電子帳簿保存法の改正により、多くの書類が電子化可能になっているため、ペーパーレス化を進められる範囲は広がっています。情報が適切に管理され、”必要なときに必要な情報へアクセスできる状態を作ること”が、属人化を防ぎ、引き継ぎをスムーズにする土台となります。
「引き継ぎ」や「業務効率化」の課題が浮き彫りになる一方で、企業がどのような領域に”システム化のニーズ”を抱えているのかが、調査結果より明らかになりました。

特にバックオフィス領域では、手作業や個人に依存した運用が残りやすく、情報の分断や処理の非効率が顕著に表れます。当社が同調査において、Q4:「今までに必要と感じる管理システムはどれですか?」という問いに対し、以下のような結果が得られました。
【調査結果】
上位に挙がった「生産管理」「在庫・倉庫管理」「販売管理」は、いずれも製品やサービスの提供に直結する中核的な業務です。これらの業務は1つの工程で完結せず、部門間で情報が行き交うため、システムによる一元管理が求められます。同時に、業務が複数の担当者に跨ることで、引き継ぎの際に「誰が・どこまで・どのように進めていたのか」が把握しづらいという課題も抱えています。
計画・原価・進捗といった工程を紙や表計算ソフトで管理していると、業務の全体像が見えず、引き継ぎ時に「どこまで進んでいるのか」「変更があったのか」といった情報の把握に時間がかかります。システム化により、担当者が変わっても進捗状況をリアルタイムで確認できるようになります。
在庫データが特定の担当者によって管理されている場合、その担当者が不在になると「どこに何があるのか」「最新の入出荷状況はどうなっているか」が分からず、引き継ぎが滞ります。システムによる一元管理で、在庫情報が常に可視化され、担当者が変わってもスムーズに業務を継続できる環境が整います。
受注から請求までの情報が分散していると、「どの案件がどの段階にあるのか」「過去にどんな対応をしたのか」が、特定の担当者しか把握できなくなります。システムを導入することで、取引履歴や対応記録が一元管理され、後任者もスムーズに業務を引き継ぐことが可能です。
一方、「人事・労務管理」(12.7%)、「経理・会計」(12.7%)、「購買管理」(12.0%)といった業務のシステム化も求められています。これらの業務は、法律対応や個別の判断が必要な場面が多く、担当者の処理方法や判断基準が属人化しやすいという特徴があります。
調査結果から見えてくるのは、”情報が分断され、担当者に依存した運用になっていること”への課題意識です。システム化のニーズは、単なる効率化だけでなく、「業務手順を標準化し、誰が担当しても同じ処理が行える環境を作りたい」という意識の表れと考えられます。属人化やアナログ業務からの脱却を目指す上で、どの業務から着手すべきかを見極めることが重要です。
引き継ぎの成否は、業務の整理と資料化の段階で大きく左右されます。前任者が自身の業務を十分に把握できていない状態では、引き継ぐべき内容そのものが曖昧になります。日常業務は習慣的に行われていることが多く、作業の全体像や判断基準が標準化されていないケースも少なくありません。そのため、引き継ぎに先立って、前任者自身が担当業務を洗い出し、整理する必要があります。業務整理をする際は、単なる作業の羅列にとどまらず、以下のような情報まで含めて明文化しましょう。
洗い出した内容は、後任者が参照しやすい形で資料やマニュアルにまとめます。また、紙ではなくクラウド上で共有・更新できる形式にすることで、情報の鮮度を保ちやすくなります。目次やリンクを設置する他、システム操作やフローは図や画面キャプチャで視覚的に示すことで理解が深まります。資料を整備することで、後任者は作業手順だけでなく「なぜその業務が必要なのか」「どう判断すべきか」まで理解でき、引き継ぎ後もスムーズに業務を継続できるようになります。
通常業務と並行して引き継ぎを行う際には、あらかじめスケジュールを策定しておく必要があります。
特に、以下のような点を考慮した計画が重要です。
月次決算業務であれば、後任者が実際に一度経験できるよう、決算タイミングを含めた引き継ぎ期間を設定することが望ましいでしょう。また、スケジュールは前任者・後任者の間で完結させるのではなく、上長や関係部門とも共有して、合意を得ておくことで、引き継ぎがスムーズに進みやすくなります。
引き継ぎが完了した後も、後任者が業務を開始してから一定期間は、判断に迷う場面や確認が必要な場面が発生します。この段階でフォロー体制が整っていない場合、後任者は孤立し、業務が停滞しやすくなります。そのため、後任者が質問や相談をしやすい体制を事前に整備しておくことが重要です。
具体的には、以下のような体制を整えておく必要があります。
例えば、引き継ぎ後1ヶ月間は前任者に質問できる期間を設け、前任者が不在の場合に備えて他部門の担当者や上司を相談先として指定しておきます。また、週次や月次で進捗確認の機会を設け、チャットやメールなど気軽に質問できる手段を確保しましょう。後任者から寄せられた質問や指摘事項は、その都度マニュアルやナレッジとして反映することで、引き継ぎ資料の精度が向上します。フォロー体制を特定の個人に依存させるのではなく、組織の仕組みとして整備することで安定的な業務継続につながります。
引き継ぎの成否は、制度やツールの導入ではなく、それらをどのように運用するかによって左右されます。
ここでは、実践に向けた考え方と具体的なアクションについて整理します。
近年、引き継ぎや業務標準化に関する課題を解決する手段として、さまざまな業務管理システムやクラウドツールが提供されています。一方で、導入そのものが目的化してしまうと、本来解決すべき業務課題が見過ごされたまま、表面的な改善にとどまってしまうことも少なくありません。
例えば、マニュアル作成ツールやナレッジ管理ツールを導入しても、「中身が更新されない」「現場に浸透していない」といった状況に陥るケースがあります。これは、システムを導入すれば自然と課題が解決されると考えてしまうことに起因しています。システムはあくまで業務を最適化するための手段です。導入を検討する際には、自社の業務課題がどこにあり、何を改善するためにシステムが必要なのかを明確にしましょう。
また、現場の実態に合った運用ができるか、導入後の更新・運用体制をどう構築するかといった点も、事前に検討しておく必要があります。ツールありきではなく、課題を明確にした上での導入判断が、最終的な成果につながります。
引き継ぎを含む業務改善は、現場が主体となって進めることが重要です。しかし、現場だけに任せきりでは、根本的な改善にはつながりにくいのが実情です。継続的に改善を進めるためには、現場と経営陣の双方が関わる推進体制が不可欠です。現場任せ、あるいは経営主導のいずれか一方に偏った進め方では、取り組みは定着しません。引き継ぎ資料の作成やデジタルツールの導入においても、現場の業務に即していなければ、すぐに形骸化してしまいます。現場の声をしっかり拾い上げながら、コツコツ改善を重ねていくことが重要です。
同時に、「業務整理に時間を割けない」「システム導入の予算が確保できない」といった障壁を取り除くには、経営陣の理解と支援が欠かせません。経営と現場が同じ方向を向くことで、業務改善は一時的な取り組みで終わらず、組織に根づいていきます。
日常業務の中で実行可能な取り組みを積み重ねることで、改善の基盤を整えることができます。初期段階で着手すべきアクションとして、次の3点が挙げられます。
自身が担当している業務を洗い出し、「業務内容」「実施頻度」「使用する資料・システム」を整理します。頻度が高く、影響範囲の大きい業務から順に、手順や判断基準を簡単なドキュメントにまとめていくことで、着実に引き継ぎの準備が進みます。
業務で使用している資料やデータの保管場所を整理して、参照先を統一します。情報の所在が明確になることで、引き継ぎ時に発生しやすい「どこに何があるか分からない」という混乱を防ぐことができます。
業務上、判断が必要となる場面や例外的な対応を洗い出し、簡易的に記録しておくことも重要です。よくあるQ&A、操作手順、注意点などを簡潔にまとめておくことで、後任者が同様の判断を再現しやすくなります。
引き継ぎに不安を抱えるのは、後任者だけではありません。業務を残して退職・異動する前任者にとっても、適切に引き継ぎができるかどうかは大きな負担となります。また、後任者が孤立した状態で業務に就くことは、生産性の低下やミスの発生だけでなく、定着率にも悪影響を与えかねません。
こうした状況を変えるには、引き継ぎをスムーズに行える体制を整えることが重要です。体制が整った職場では、社員一人ひとりが安心して働くことができます。
業務が属人化している職場では、「自分が抜けると業務が回らない」「休むと迷惑がかかる」という心理的プレッシャーが生じやすくなります。しかし、引き継ぎの仕組みが整っている組織では、役割分担が明確であり、誰かがカバーできる環境が整っています。これにより、従業員の業務負担が分散され、心理的な負荷も軽減されます。
引き継ぎ体制が整うことで、担当者が安心して有給を取得でき、後進育成の時間も確保しやすくなります。育児・介護・転居といったライフイベントにも対応しやすく、キャリアパスを柔軟に描ける環境が実現します。こうした環境は、従業員にとっても組織にとっても持続可能な状態をつくり、離職率の低下や人材の定着につながります。組織において、引き継ぎは日常業務の一部であり、担当者の異動や退職といった変化に柔軟に対応できる体制を整える必要があります。
今、自社のバックオフィス業務において「引き継ぎの難しさ」を感じているなら、まず目の前の業務を一つずつ見直すことから始めてみましょう。その積み重ねが、引き継ぎの不安を解消し、誰もが安心して働ける組織を作る第一歩となります。
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