こちらの記事でわかること
AIの進化に伴い、様々な業種・業界でAIを活用した業務効率化の取り組みが実施されています。
例えば、マーケティング領域では広告文や商品説明文の作成に活用されるケースや、IT業界ではプログラムのコード生成や仕様整理に取り入れる動きが見られます。ほかにも、議事録の要約や資料作成の補助など、日常業務の一部にAIが活用されるケースが見られます。
一方で、モノを取り扱う中小企業の現場では、どのような業務でAIが活用されているのでしょうか。
本記事では、製造業・卸売業・小売業に従事する361名から得られた回答をもとに、業界におけるAIに対する興味や意識、どのような業務で活用が進んでいるのかなど5つの設問ごとに見ていきます。
今回のアンケートは、製造業・卸売業・小売業に従事する361名(男女、20歳以上、役職・雇用形態問わず)を対象に実施しました。
設問は以下の5項目で構成しています。
単に「使っているかどうか」だけではなく、活用の具体的な業務領域や背景にある目的意識、導入を阻む要因、そしてAIに対するスタンスまでを段階的に把握できる構成としています。

まず、製造・卸売・小売業に従事する361名に対して、「Q1:現在、仕事の中でAI(ChatGPTなどのチャットツールも含む)を活用していますか?」と尋ねたところ、「今後も使う予定はない」と回答した割合が39.6%ともっとも多い結果となりました。
次いで、「日常的に活用している」が17.2%、「私用で使っているが、業務では使っていない」が15%、「試験的・部分的に活用している」が14.1%、「興味はあるが、まだ使っていない」が14.1%という内訳です。
業務の中で何らかの形でAIを活用している層(「日常的に活用している」および「試験的・部分的に活用している」)を合計すると31.3%となり、約3割が業務に取り入れていることが分かります。一方で、「今後も使う予定はない」と回答した層が約4割にのぼっている点は、モノを取り扱う中小企業の現場において、AI活用がまだ広く浸透しているとは言い難い状況を示しています。
また、「私用では使っているが、業務では使っていない」と回答した層が15%存在しており、個人レベルではAIに触れているものの、業務としての導入や活用には至っていない実態がうかがえます。
この結果から、AIはすでに一定数の企業で業務に取り入れられている一方で、活用に踏み切れていない層や、そもそも導入を想定していない層も少なくないことが分かります。次に、実際にどのような業務領域でAIが活用されているのかを見ていきます。

Q2:AIを活用している(または活用したい)業務はどれですか?(複数選択可)では、Q1で「日常的に活用している」または「試験的・部分的に活用している」と回答した113名を対象に、具体的にどの業務でAIを活用している、あるいは活用したいというニーズがあるのかを調査しました。
もっとも多かったのは「書類作成・メール・文章作成などの間接業務全般」で49.6%と、約半数にのぼりました。次いで、「データ集計・分析・レポート作成などの経営管理業務」が33.6%、「商品企画・価格設定・販促アイデア出しなどの企画・マーケティング業務」が28.3%となっています。
一方で、モノを取り扱う業種の中核ともいえる業務である「受発注・見積・請求などの販売管理業務」は24.8%、「在庫照会・ロット管理・棚卸などの在庫管理業務」は23%、「生産計画・進捗管理・工程管理などの生産管理業務」は21.2%という結果でした。
この結果からは、まず間接業務や情報整理・文章作成といった領域でAIの活用が進めやすいことが分かります。一方で、生産管理や在庫管理など、業務の根幹に関わる基幹業務への活用は2割前後にとどまっており、導入は限定的であることがうかがえます。
AIはすでに一定の業務で活用されているものの、その中心は補助的・間接的な業務領域にあると言えそうです。次に、そうした業務でAIを活用する目的について見ていきます。

続いて、Q2と同じ回答者にQ3:AIを活用する目的として、最も近いものはどれですか?と尋ねました。
もっとも多かったのは「新しい施策・取り組みのヒントを得たい」で45.1%でした。次いで、「単純作業・繰り返し作業を自動化したい」が41.6%、「業務の標準化を進めたい」が38.9%、「データや数値をもとに、在庫・生産・発注などの判断や意思決定の精度を高めたい」が38.9%と続いています。
また、「人手不足を補い、少人数でも業務を回せるようにしたい」は33.6%であり、人材面の課題に対する対応策としてAIを位置づけている層も一定数存在しています。一方、「社内外のコミュニケーションをスムーズにしたい」は13.3%にとどまり、AIの活用目的は主に業務プロセスや意思決定に関わる領域に集中していることが分かります。
全体を見ると、単なる作業効率化だけでなく、「意思決定の高度化」「新しい施策の発想」といった、業務の質を高める方向への期待が強いことが読み取れます。特に、生産管理や在庫管理、発注管理といったモノを扱う業種特有の判務に対してAIを活用したいという意向が約4割にのぼっている点は注目に値します。
次に、そうした期待がある一方で、AI活用が進んでいない理由について見ていきます。

Q4:AI活用が進んでいない理由として、当てはまるものはどれですか?(複数選択可)では、Q1で業務にAIを活用していないと回答した248名を対象に、その理由について尋ねました。
もっとも多かったのは「特に理由はない」で48.%で、約半数が明確な障壁や強い拒否感を持っているわけではないと回答しています。
次いで、「何から始めればよいかわからない」が24.6%、「どのツールを選べばよいかわからない」が16.9%と続きました。具体的な活用方法や選択肢が見えないことが、導入を後押しできていない実態がうかがえます。また、「現場業務にマッチするか判断できない」は9.7%、「セキュリティ・情報漏洩が不安」は8.9%、「ITやAIに詳しい人材がいない」は7.7%、「既存業務で手一杯」は7.3%、「導入・運用コストが不安」は6.5%という結果でした。
この結果を見ると、強い反対や明確な拒絶よりも、「具体的な進め方が分からない」「選択肢が整理できていない」「AIの対しての理解が乏しい」といった情報不足・判断材料不足が主な要因となっていることが分かります。
AI活用が進んでいない背景には、技術的な問題よりも、導入プロセスや具体的な活用イメージの不足が影響している可能性があります。
次に、AIと人の役割分担について、どのように考えられているのかを見ていきます。

最後に、Q5:AIと人の役割分担について、最も近い考え方はどれですか?と対象者全員に尋ねました。
もっとも多かったのは「まだ考えたことがない」で34.3%でした。AI活用が話題にのぼる機会は増えているものの、AIと協業するという観点まで整理できていない層が一定数存在していることが分かります。
次いで、「AIはあくまで補助で、人が最終判断すべき」が28.3%と続きました。AIを意思決定の主体とするのではなく、あくまで支援ツールとして位置づける考え方が一定の支持を得ています。一方で、「定型業務はAIに任せ、人は判断に集中したい」は13%、「AIの提案をベースに人が判断する」は10.5%と、AIを業務プロセスに組み込む前提で役割分担を考えている層も存在しています。
また、「人の仕事は基本的に変わらないと思う」は10.8%と、AIに対して消極的な姿勢の意見に加え、「できるだけAIに任せたい」は3.0%で、AIへ委ねたいと考える層は非常に少ないことがわかりました。
全体として見ると、AIを“補助的存在”として捉える傾向が強く、意思決定の最終責任は人が担うべきとする意識が主流であることが分かります。
製造業・卸売業・小売業では、生産管理・在庫管理・購買管理・販売管理・財務会計までが連動しています。そのため、単一業務の効率化だけでは企業全体のDX化にはつながりません。今回の結果からは、AI活用への期待は存在する一方で、基幹業務への本格的な組み込みには至っていない現状が浮かび上がりました。
AI活用は「進んでいない」というより、「検討段階にある」と捉えるほうが実態に近いでしょう。どの業務に、どのように組み込み、既存フローとどう連携させるのか―。その整理こそが今後の焦点となります。
本調査は結論を提示するものではありません。モノを取り扱う企業の現場が、現在どの地点にあるのかを示す一つのデータです。この結果が、今後のより具体的な議論や実践につながることを期待します。
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