こちらの記事でわかること
在庫管理は、企業の利益構造、資金効率、顧客満足度に深く関わる業務であり、その精度が企業価値を左右します。しかし、在庫運用における妥当性を感覚や経験のみで判断することは困難です。そこで必要となるのが、KPI(Key Performance Indicator;重要業績評価指標)です。
KPIを活用すると、以下のような点を客観的なデータとして把握・評価できるようになります。
本記事では、在庫管理におけるKPIの基本的な考え方から、自社の状況に合わせた活用方法まで体系的に解説します。
最終的な経営目標を達成するためには、その過程を定量的に管理する必要があります。KPIは、そのための管理指標であり、経営目標と日常業務を結びつける役割を担います。
KPIには以下の4つの要素があります。
KPIの本質は、”現場の数値化に留まらず、目標との差異を明確にして改善アクションへとつなげる”ことにあります。
在庫回転率や滞留在庫率などの数値を継続的に把握することで、在庫の動きや偏りが明確になります。これにより感覚ではなく客観的なデータに基づく判断が可能になります。
KPIを通じて欠品状況を継続的に把握することで、補充体制や需要予測を改善し、売上機会を最大化できます。
在庫精度やリードタイムを継続的に測定することで、業務フローの課題が明確になります。定量指標があることで、改善前後の比較や成果の検証が可能となります。
在庫はサプライチェーン全体と密接に連動しています。リードタイムや需要予測精度といった指標を組み合わせて管理することで、部分最適ではなく全体最適を目指すことができます。
在庫は貸借対照表上の資産であり、キャッシュフローに直結します。在庫回転率や在庫回転日数を適切に管理することで、資金効率の改善やキャッシュフローの健全化につながります。
KPIは部門間の共通指標として機能する一方、各部門が個別にKPIを設定すると部分最適に陥るリスクがあります。営業部門は欠品リスクを避けるため在庫水準を高く保ちたい一方、財務部門はそれをキャッシュフローの悪化と捉えます。KPIを全社共通の判断基準として位置づけることで、部門間の温度差を埋め、全体最適の視点から在庫を管理できるようになります。

実際に、企業の在庫管理はどこまで進んでいるのでしょうか。当社が行った独自調査(回答者:製造・小売・卸売業に従事されている599名)では、「今すぐにでも必要と感じる管理システムはどれですか?」という質問に対し、「在庫・倉庫管理」(17.2%)が2位という結果になりました。
この数字は、在庫管理への関心の高さを示す一方で、裏返せばそれだけ多くの企業が現状の管理に課題を感じているとも読み取れます。近年は、在庫管理システムやBIツールの普及によりKPIを可視化する動きも広がっていますが、感覚や経験に頼った在庫管理から脱却できていない企業も少なくありません。
※その他の調査結果に基づくレポートは、以下のページにまとめています。詳しくはリンク先をご覧ください。
在庫回転率は、一定期間内に在庫が何回入れ替わったかを示す指標であり、在庫管理におけるKPIのひとつです。
在庫回転率 = 売上原価 ÷ 平均在庫金額
平均在庫金額 = (期首在庫金額 + 期末在庫金額) ÷ 2
※月次で算出する場合は、月初と月末の在庫金額を用います。
在庫回転日数 = 365日 ÷ 在庫回転率
在庫回転率が高い場合は在庫が効率的に消化されている一方、低い場合は在庫の滞留や需要予測の誤差が疑われます。キャッシュフローや保管コストに直接影響するため、経営指標としても活用される指標です。
ただし、在庫回転率の向上だけを追求することは適切ではありません。業種によって適正値は異なるため、欠品率やリードタイムなどと組み合わせ、全体最適の視点で評価することが重要です。
欠品率は、需要が発生したにもかかわらず、在庫不足により供給できなかった割合を示す指標です。この指標は、在庫管理におけるサービス水準を測る代表的なKPIです。
基本式
欠品率(%) = 欠品数量 ÷ 総需要数量 × 100
欠品率が高い場合、販売機会の損失や顧客離れにつながる可能性があります。一方で、欠品率は在庫回転率とトレードオフの関係にあります。在庫を圧縮すれば回転率は向上する傾向がありますが、同時に欠品リスクが高まります。そのため、欠品率は単独で管理するのではなく、在庫回転率とのバランスを意識しながら評価することが重要です。企業の戦略や顧客サービス方針に応じて、許容すべき水準を設定する必要があります。
在庫精度は、帳簿上の在庫(理論在庫)と実在庫がどの程度一致しているかを示す指標です。棚卸差異をもとに算出されることが一般的であり、すべての在庫KPIの前提となる基礎指標といえます。
在庫精度(%) = 一致数量 ÷ 棚卸対象総数量 × 100
一致数量:理論在庫と実在庫が一致した数量
棚卸対象総数量:棚卸を行った全在庫数量
差異率(%) = |棚卸差異数量| ÷ 帳簿上の在庫数量 × 100
※| |は絶対値を表します。差異がプラス・マイナスどちらの場合も正の値として計算します。
在庫精度が低い状態では、発注計画や需要予測だけでなく、あらゆるKPIの信頼性が損なわれます。精度を維持するためには、入出庫管理の徹底、定期的な棚卸など、業務フロー全体の整備が必要です。
滞留在庫率は、一定期間以上動きのない在庫が全在庫に占める割合を示す指標です。対象期間は業種や商品特性によって異なりますが、例えば「90日以上動きのない在庫」などを基準とするケースが一般的です。
滞留在庫率(%) = 滞留在庫数量(または金額) ÷ 総在庫数量(または金額) × 100
※滞留の定義(日数)は業種・商品により異なります。
滞留在庫はキャッシュフローの悪化や廃棄損失を招く要因となります。滞留在庫率をKPIとして可視化することで、値下げ販売や発注量の見直しといった具体的な対策につなげることができます。在庫回転率が「量」の効率を測る指標であるとすれば、滞留在庫率は「質」を評価する指標といえます。両指標を組み合わせることで、より精度の高い在庫管理が実現します。
リードタイムは時期や仕入先ごとにバラつきが生じやすいため、データとして継続的に管理し、発注タイミングの精度向上や安全在庫の適正設計に活かすことが重要です。
※リードタイムには、調達リードタイム、生産リードタイム、配送リードタイムなど、フローごとに区分されます。
リードタイム = 入荷日 − 発注日
平均リードタイム = リードタイムの合計 ÷ 件数
リードタイムが長くなるほど需要変動への対応力が低下し、安全在庫を厚く積む必要が生じます。これを短縮・安定化させることで、在庫圧縮と欠品防止の両立が図れます。また、サプライチェーン全体の効率性を示す指標でもあります。調達体制や生産計画、物流網の見直しなど、構造的な改善を検討する際の重要な判断材料となります。
需要予測精度は、予測値と実績値の差異を示す指標です。平均絶対誤差率(MAPE)を用いて評価されることが一般的です。
MAPE(%) = |実績 − 予測| ÷ 実績 × 100
※| |は絶対値を表します。過大・過小どちらの誤差も同じように扱うため、予測精度の評価に広く用いられます。
予測精度が低い場合、過剰在庫の発生や欠品の頻発、発注計画の不安定化といった問題を引き起こします。需要予測精度を改善するためには、過去データの分析、販売トレンドの把握、季節変動や外部要因の考慮、営業情報との連携など、部門横断的な取り組みが求められます。継続的に測定することで、発注計画の改善につなげることができます。
廃棄率は、仕入・生産した在庫のうち、販売・出荷されずに廃棄された数量(または金額)の割合を示す指標です。
特に食品、医薬品、アパレルなど、期限や流行の影響を受けやすい商品を扱う業種では重要な管理指標となります。
廃棄率(%) = 廃棄数量(または廃棄金額) ÷ 仕入・生産数量(または仕入金額) × 100
廃棄率の上昇は、需要予測の精度低下や過剰発注の可能性を示唆します。また、直接的な損失計上につながるため、利益率に与える影響も小さくありません。廃棄率をKPIとして可視化することで、値下げタイミングの最適化や発注ロットの見直しなど、ロス削減に向けた具体的な対策につなげることができます。在庫削減だけでなく、利益の最大化という観点からも重要な指標です。
バックオーダー率は、受注したにもかかわらず即時出荷できず、後日出荷となった注文の割合を示す指標です。欠品率が供給できなかった割合を示すのに対して、バックオーダー率は出荷を前提としつつも遅延が生じた割合を示す点で異なります。
バックオーダー率(%) = バックオーダー数量 ÷ 総受注数量 × 100
バックオーダー率の割合が高くなるほど、顧客満足度の低下やキャンセル発生のリスクが高まります。特に、BtoB取引や継続取引が多い企業では必要性の高いKPIです。この指標を把握することで、安全在庫水準の妥当性や調達・生産リードタイムの適正を評価できます。在庫削減を進める際には、バックオーダー率を同時にモニタリングすることが重要です。
解説した各KPIは、在庫管理を多面的に評価するための指標です。
これらを継続的にモニタリングすることで、在庫管理の課題を客観的に把握できるようになります。自社の業種特性や経営課題に合わせて、優先すべきKPIを選定することが重要です。
KPIの選定において、もっとも重要なのは業種による特性と経営課題を明確にすることです。業種や経営課題によって優先すべき指標は異なります。
例えば、需要変動が大きい小売業では欠品率や在庫回転率が重要視される傾向があります。一方、製造業ではリードタイムや需要予測精度など、供給体制や計画精度に関わる指標が重視されます。業種はもちろん、商品の特性(賞味期限の有無、需要変動幅、単価水準など)も、選定に大きく影響します。自社の業種と商品特性を整理した上で、優先すべきKPIを絞り込むことが重要です。
KPIは指標ありきで選ぶのではなく、解決したい課題から逆算して選ぶべきです。
KPIは絞り込んで設計し、業務改善と財務管理の両面から活用することが重要です。多くの数値を追いすぎず、課題に直結する指標に集中することが、KPI活用の第一歩です。
在庫管理はトレードオフの連続です。在庫回転率が改善されても欠品率が悪化していれば、在庫削減が過剰であることを示唆します。複数の指標をバランスよく管理することで、KGIの達成につなげることが重要です。
これらの指標は単独で評価するのではなく、セットで見ることで在庫管理の全体像を把握できます。また、市場環境や事業構造は常に変化します。新商品の投入、需要構造の変化、取引条件の変更などにより、優先すべきKPIも変わります。KPIは固定的なものではなく、事業環境の変化に応じて定期的に見直すことが重要です。
在庫管理のKPIは、数値を追うことが目的ではありません。その数値の背景にある課題を読み取り、改善アクションへとつなげることに意味があります。どのKPIを選ぶか、どの指標を組み合わせるか、そしていつ見直すか―。その判断こそが、在庫管理をデータに基づく経営の一部として機能させる第一歩です。本記事が、自社の在庫管理を見直すきっかけになれば幸いです。